Lose様の人気作「まいてつ」と「さくら、もゆ。」両作品に蒸気機関車が登場する事で生まれた企画、
両作品のライター同士で相互SSを贈り合うというコラボが実現いたしました!
「さくら、もゆ。」の作品世界へ「まいてつ」の旧帝鉄8620形蒸気機関車が訪れて……
というショートストーリーを書かせて頂きました。

Lose様からのSSはこちらになります!

コラボ記念にお互いのクリエイターのサイン入りグッズが当たる
ダブルリツイートキャンペーンも行っております。
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 季節は春。

 さくら舞い踊る“夜”の中。
“刻の終着駅”に見知らぬ列車がやって来た――

「この子はどこから来たのかな。はじめて見るね」
 思い描けるすべてが叶う“夜の国”へと遊びに来ていた女の子。元魔法少女の柊ハルは、大きな瞳を丸くしながらその列車を見つめてる。
「そうだね。うん。知らない子だね。……ねえ、ナナちゃんならわかるんじゃないかな」
“夜の魔法使い”の拠り所――“ゆめのねどこ”に住む小さなちいさな女の子、冬月十夜がちょこんと首を傾げて、大好きなお姉ちゃんのことを見上げてた。
 その視線をにっこり笑顔で受け止める女の人は――日陽井あさひは、かわいい妹に何度かうなずいて見せ、こう言った。
「そうだなあ。私はちょっと列車の類はよくわかんないから……うん。ナナちゃんに。この町の“夜”に住む小さな神さまに聞いてみようか。何か面白いことがわかるかもしれないな」
「……違う。私は神さまなんかじゃないんだよって。あなた達は何度言ったらわかるのかな」
 ナナちゃんと呼ばれた車掌の制服姿の女の子。ちょっと頬を膨らまれながらも「まあ、そうだね。わからないわけじゃあ、ないけども」と、十夜を真似るようにして首をちょこんと傾げてみせた。
「これは……旧帝鉄8620形蒸気機関車、こことは違う幻想世界の住人だね。きっとそうだよ。どこから迷い込んで来たのかな。全然気づかなかったよ」
「そっか。迷子ならちゃんと元の世界に戻してあげないと」
 妹が元気よくぴょんぴょんと小さく飛び跳ねそう言った。
「うん。そうだな。時には知らない子に優しくしてみるのもいいかもな。いつも見知った子らとお話ししてるだけじゃなくってね」
 姉が足元にじゃれついてくる妹の頭を撫で撫でしながら微笑んだ。
「そうだね。……もう私は、昔みたいに魔法はまったく使えないけど。それでも、今の私にできることなら力いっぱい、役立てるようにってがんばるよ」
 かつてこの世界の危機を、その不思議な力で救った少女もにっこりと笑ってた。
「……まったく。君たちはいつもそうだね。何かあるとすぐ、そうやってさ、進んで首を突っ込もうとするよね」
「まあそう言うなよナナちゃん。……たぶん、この列車も君なら動かせるだろ?」
 そう言うあさひの言葉に、ナナと呼ばれる小さな子は警戒するように目を細めてる。
「……いやだよ。私はね、これでも毎晩、大忙しなんだよ。まだまだたくさん、今夜片付けなきゃいけない仕事が残ってる。だからそんな思いつきに付き合ってなんて――」
「何でも好きなカップ麺、ご馳走するからさ。いくらでも」
 あさひの言葉にナナはぴたりと止まった。
「私のぶんも、カップ麺あげるよ。ナナちゃん。今夜ね、ナナちゃんとお姉ちゃん、それとハルちゃんの四人で一緒に食べようかって。持ってきてるのがあるんだよ。だから、お願い。迷子をお家に返してあげるの……手伝ってくれたら、うれしいなあ」
「私のもあげるよナナちゃん。これだけで足りなかったら、また今度、大雅くんといっぱい……美味しいのをたくさん、持ってくるから。だからお願いだよ。私たちのお願い、聞いてくれたら……私もすっごく、うれしいなあ」
 十夜とハルのお願いで、ナナは小さな頭に乗っけた大きな帽子を目深に被り……。
 ちょっと笑顔に緩みそうになった頬を隠してた。
「し、しかたないなあ。そんなにお願いされちゃったら断れないよね――迷子は、ほっとけないよね。まあ、うん。いいよ。しかたがないから手伝ってあげよう」
「ナナちゃん。よだれ、垂れてるよ?」
 十夜がくすくす笑って。
 ナナは慌てて、口を袖元で拭ってた。
「ひ、一晩しっかり働いた後に食べるカップ麺はすごい……すっごい、美味しいんだよ。だからしかたがないんだ。よ、よだれくらい、垂れちゃうよ」
「そう? 私のお姉ちゃんが作ったご飯も美味しいよ……?」
 十夜は目をパチクリとさせ、
「うんうん。そうだよね。あさひさんの手料理……、すっごく美味しいよね。まだまだ私が子どもだったあの頃は……十年前はね、殆ど毎日、食べさせてもらってたけど。今のほうが断然、磨きがかかっててすごいなあって思うんだよ」
 ハルは腕を組み、すみじみと深く何度もうなずいていた。
「ま、まあ、うん。それはそうだろうけど……それとこれとは別なんだよ。デザートとかと同じなんだ。うん、別腹ってやつかな」
 ナナはどこか得意そうに、ふたりに向かって小さな胸を張っていた。
 そしてうっとりと、頬をほんのり赤く染めていた。
「あぁ、カップ麺……添加物いっぱいで。油もいっぱい。きっと身体に悪いんだろうなぁってわかるけど、でもさ、そういうものほどとっても美味しい。私たち夜のイキモノは人間みたいに、食べ物で悪くするような身体はないから、いくらでも、たくさん、美味しいものを食べられちゃうから……お得だよね」
「お姉ちゃん……」
「ん? なんだい十夜」
「あのね。私……このとっても賢い妹はね、思ったの……ナナちゃん、カップ麺がただ好きなんじゃなくって……あの……えっと、ちゅ、ちゅぅ……うう! 何だっけお姉ちゃん!」
「中毒?」
「そうそれ! ただカップ麺が好きなんじゃなくて、なんだかちゅーどくのひとみたいだよ、ナナちゃん」
「……カップ麺の中毒なんて。た、大変だよ。みるみる太って……ほんとに大変……!」
 ハルが顔を青くし震えるけれど、ナナはそんなことお構いなし。得意そうな顔のまま。
「ふふ。いいんだ。カップ麺にならどれだけ毒されてしまってもいいんだよ……私。むしろ毒されてしまいたいよ。この身体も、この心も、この命も丸ごと全部。うふふ」
「……お姉ちゃん、ナナちゃんが怖いよ」
「あ、ああ。まさか小さな夜の神さまを、ここまで夢中にさせちゃうなんて。恐ろしいな、カップ麺。私がいっぱい心を込めて料理作ってみても、ナナちゃんをカップ麺から浮気させられるかどうか。ちょっと自信がないなあ……」
「わ、私も何でかな。カップ麺って、そんなに美味しかったかなって。ちょっと、記憶に自信が……」
 ハルが神妙に十夜とあさひに応えると、ナナはちょっと不満そうに目を細めてた。
「三人していったいなにをこそこそ話してるの? まあ、いいけどさ……とにかく行こう。美味しいカップ麺が待ってるから……う、ううん。きっとこの子のお友だち達も、この子のことを探してる。早く安心させてあげないとだね」
 ナナはそう言い、三人を招き入れるようにそっと、その列車に乗り込んだ。

「それでは、しゅっぱつ進行ー……だよ」
 ナナの静かな掛け声に合わせ、いつもとはちょっと違う汽笛の音色が、刻の終着駅に鳴って響いた。

 そんなこんなと。
 ふっと迷い込んだ列車と共に、ほんの一晩限りの冒険が……。

 はじまったり。
 はじまらなかったり。

 今夜の“夜”の不思議を乗せて、見知らぬ列車は走り出した。